取材報告 ー SNSを利用した妊娠
取材の内容
朝日新聞デジタルに掲載されました。
取材事件に関して、法的問題点などのコメントです。
記者の方は、「精子のネット取引による妊娠問題」について取材を進めておられました。
医事法を扱うということで、紹介者を通じて、私に取材依頼がありました。
お話を聞いて、驚きました。
SNS(Social Networking Service)を使って、不妊で悩む夫婦に対し精子を提供するサービスがあるというのです。
それを利用して妊娠した女性と、精子を提供した男性との間で、既に紛争になっているとのことでした。
詳細は、記事をご覧下さい(生々しい記述もあるので、苦手な方はお気をつけ下さい)。
法規制のない生殖医療
私は、かねてから、「現行民法が規定する親子関係は、自然生殖を念頭においており、現代の医療には対応していない」と考えていました。
医療が法規制のないまま、生殖医療に進んでいった結果です。
逆に言えば、法規が現実に対応しておらず、その隙間を埋めるはずの裁判がも役目を果たしていないと思っています。
そのような事態は、「どのようにしても子どもが欲しい」という人たちがいて、現代の医学や情報コミュニティがそれを可能にしたから、生じたのでしょう。
私は、生命倫理からも法律関係からも、早期に法規の制定が必要だと思っています。
関係学会が見解や指針を発表したり、厚労省の専門委員会が「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」を発表したりしていますが、強制力はありません。
記者からお聞きした事件は、ネット社会、少子高齢化、生殖医療の現実から考えて、起こるべくして起きた事件のように感じました。
取材に対し、法的観点からの問題点と法規制の必要性を、コメントしました。
父子関係の決定
父子関係については、民法が次のように定めています。
「第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。」
つまり、確たるものがなく、「推定」するしかないのです。
山崎豊子さんの小説「華麗なる一族」は、金融再編を扱う経済小説ですが、主人公「万俵大介」が「長男鉄平は自分の子ではない」との疑心暗鬼が底流に敷かれています。
今なら簡単に、証明できたことになり、あの名作はいちから作り直さなければ不自然になります。
私が弁護士になった頃は、DNA鑑定もなく、様々な血液鑑定を総合して父子関係を決めていました。
今では、DNA鑑定で、限りなく100%に近く確定可能です。
裁判でなくとも、私的に鑑定依頼することもできるし、判定までの期間も短く、費用も安価になってきています。
ほおの内側を綿棒でこすって採取する(口腔上皮)のが一般的ですが、毛髪や歯ブラシも検体になりえます。
ここまで科学的に父子関係は明確になりますが、裁判所は、遺伝子上の父子と法律上の父子は一致しない場合があってもいいと考えています。
映画「そして父になる」(第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞)は、赤ちゃん取り違え事件(参考「赤ちゃん取り違え事件の17年 ねじれた絆」奥野修司 文春文庫 2002年)を扱った作品ですが、父子とのあり方を考えさせてくれます。
法的観点から考えること
自然生殖によらない懐胎、出産については、真摯な同意が必要なことはいうまでもありません。
特に、夫以外の第三者が精子を提供した場合は、複雑な問題を残します。
出自を知る権利の問題(父親を知りたいという子の希望と秘匿を条件に精子提供したドナーの事情の対立)、近親婚のリスク(参考 民法第734条は近親者間の婚姻を禁止している)、優性主義への傾倒(参考 デザイナーベビー)などです。
これらの問題については、厚労省の専門部会において「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」が一定の方向性を示しています。
立場によって、ご意見は様々だと思いますが、子の福祉が第一という点では一致できると思います。


